福岡高等裁判所 昭和55年(ネ)127号 判決 1980年6月17日
控訴人 古賀勝
被控訴人 国
代理人 中野昌治 日高静男 ほか六名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金五二〇二万円及び昭和五四年二月四日以降支払ずみまで内金四五七二万円に対しては年六分、内金六三〇万円に対しては年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、原判決事実摘示(原判決添付(一)、(二)を含む)のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決一三枚目―記録一八丁―表一〇行目の「転稼」を「転嫁」と、「設明」を「説明」とそれぞれ改める。)。
理由
一 大牟田市において被控訴人の事業の一環として建設大臣からその機関として事務の委任を受けた大牟田市長により土地区画整理事業が実施されたこと、右事業が昭和五一年中に終了し、控訴人に対する清算金の支払の通知が同年一〇月二六日頃なされたことは当事者間に争いがない。
控訴人は、右事業の結果控訴人所有の従前の土地が減歩されたので、その減歩自体につき控訴人に対し、憲法二九条三項に基づき被控訴人に損失補償の義務があると主張する。
しかしながら、以下に述べる理由により、土地区画整理事業の換地処分に伴つて従前の土地が減歩されたこと自体に基づき、清算金・減価補償金の支払のほかその損失補償を求めることは許されないと解するのが相当である。すなわち、土地区画整理事業とは都市計画区域内の土地について公共施設の整備改善及び宅地の利用増進を図るため土地区画整理法で定めるところに従つて行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業であつて、これによつて健全な市街地の造成をしようとするものである。そして公共施設の新設等のための用地としてかなりの地積が充てられることから、右事業の施行地区内の宅地は多かれ少なかれ減歩されるのが通例であるが、このような減歩それ自体によつて直ちに財産権の侵害があつたということはできない。なぜならば、このような土地の減歩は健全な市街地造成のために土地所有者等が受忍すべき財産権に対する社会的制約であり、また、土地区画整理事業によつて宅地の利用価値の増加が見込まれるのであるから、地積が減縮しても宅地の利用価値の増加により直ちにその交換価値に損失を与えることにはならないと考えられるからである。もつとも換地又は換地について権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を定め、又は定めない場合において、不均衡が生ずると認められるときはこれを是正するため金銭による清算がなされ(土地区画整理法九四条参照)、また、土地区画整理事業の施行後の宅地の価額の総額が施行前の宅地の価額の総額により減少した場合においては、その差額に相当する金額が各権利者に減価補償金として支払われ(同法一〇九条参照)、前者の制度は損失補償の趣旨をも含むものと、後者の制度は損失補償の趣旨であるとそれぞれ解されるのであつて、仮に減歩による損失があつたとしてもこれらの制度によつてその損失は填補される筋合でありそのうえ憲法二九条に基づく損失補償が必要であると解すべき余地はない。
そうすると従前の土地の価額と換地の価額を比較することなく、かつ清算金を考慮しないまま、減歩された地積に換地処分の行われた当時の課税評価額による単価を乗じて減歩それ自体についての補償を求める控訴人の請求は失当として棄却すべきである。
二 よつて原判決は相当であり、本件控訴は、理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 園部秀信 辻忠雄 前川鉄郎)